研究の全体像
発生・環境応答・老化・再生にまつわるさまざまな生命現象を分子(遺伝子・蛋白質)レベルで理解しようと試みています。解析レベルは、分子、オルガネラ、細胞、組織、動物個体、動物集団、とさまざまな階層を同時に見たいと思っています。そのために細胞も個体も見ることができ、集団で飼育できる動物「ゼブラフィッシュ」を使用しています。大事なのは遺伝学ができる点と、サンプル数を多く準備できる点です。加えて、薬剤処理が培養細胞並みに簡便にできる脊椎動物はゼブラフィッシュしかないと考えています。

特色:ゼブラフィッシュの活用

有用点:
1)遺伝学(突然変異系統、遺伝子ノックアウト、トランスジェニック)が使えること、2)ヒト疾患モデルの代替手段となりうる代表的な非ほ乳類モデルせきついどうぶつであること。

長所:
1)飼育費・維持費が安い、孵化や成長が早い、多くのサンプル数を常時準備できる、胚や稚魚が透明で可視化可能、ヒトとほどよく進化的に離れているので、分子情報の比較解析が有用。

主な研究トピック:

1)造血幹細胞の発生とエピジェネティクス
 血球運命を決める因子同定を目指し、赤血球分化が異常となる突然変異体の大規模スクリーンを行い、その解析と原因遺伝子同定を行ってきました。その結果、ヒストン脱メチル化酵素LSD1が造血幹細胞自身の発生に重要な働きをすることを発見しました。造血幹細胞は胎児背側大動脈の血管内皮細胞が「内皮-造血転換」を起こして分化し、血管から飛び出して血液循環に入り造血組織に定着します。LSD1はこの過程に作用することがわかりました。現在、そのメカニズムを解明しています。

LSD1突然変異系統:
LSD1は造血発生だけでなく、内臓器や脳神経の発生や再生にも関与する。その解析も行っています。


Takeuchi et al. (2015) Proc Natl Acad Sci USA 112:13922-13927

Tamaoki et al. (2020) Sci Rep 10:8521

2)抗酸化食品の作用メカニズム
 香辛料・大豆類・乳酸菌などに含まれる食品成分には私たちの体がもつ抗酸化力を高め、疾患予防や健康増進に期待されるものがあります。私たちは各種食品成分の抗酸化作用の分子メカニズム解明のために、動物個体を用いて研究を行っています。現在、ゼブラフィッシュ稚魚で有意な抗酸化作用を示した13食品成分について解析しています。大半が後述するNrf2経路を介した作用でしたが、Nrf2非依存的な食品成分もありました。新しい抗酸化経路の発見につながると期待し、解析を進めています。



村木&小林 (2019) 実験医学 38:1801-1806


Endo et al. (2020) Int J Mol Sci 21:1109

3)Nrf2経路と各種ストレス防御:
 私たちは体の内外で生じるストレスや毒性物質に対する防御機構Keap1-Nrf2経路をもっています。解明を目指しているのは、Keap1がなぜ多種多様のストレスや毒性物質を感知できるのかと、どうやってNrf2がさまざまな生体防御遺伝子群を発現誘導するかです。私たちはこの謎を知るために、突然変異体の大規模スクリーンを行い、ストレス応答が異常になる面白い変異体を集めてきて、その原因遺伝子を明らかにしてきました。現在、これら原因遺伝子とストレス応答の関係を調べているところです。

Nrf2突然変異系統:


Mukaigawa et al. (2012) Mol Cell Biol 32:4455-4461

Keap1破壊系統:

Nguyen et al. (2020) Redox Biol 36:101667

小胞体ストレスとNrf2経路の関係:

Mukaigasa et al. (2018) Proc Natl Acad Sci USA 115:2758-2763

4)非ほ乳類のヒト疾患モデル
 大規模ゲノム解析から、希少難病疾患とリンクする遺伝子群が浮かび上がっています。創薬や診断の対象遺伝子とするかは証拠が少なく、その検証をゼブラフィッシュなど非ほ乳類動物で行うプロジェクトが立ち上がっています。私たちは、このプロジェクトに参加し、研究を進めています。



村木&小林 (2019) 実験医学 38:1801-1806

5)ビジュアルデザイン教育
 研究者がわかりやすく魅力的なプレゼンができるように、ビジュアルデザインに関する教育活動を芸術系の田中佐代子先生と行っています。